陸羽

陸羽

●陸羽のコンセプト

 『陸羽(りくう)』は、2009年に出口雄樹を発起人として空間を作品として扱い、鑑賞者の感覚を日常から芸術的に隔離することを念頭に結成されたグループです。初期メンバーは2009年の藝祭(毎年夏に行われる東京藝術大学の学園祭)における展示をきっかけに集まりました。出口雄樹を含む、建築家、デザイナー、日本舞踊家の計7人。

 2009年度の企画では、芸術的隔離を念頭に東京藝術大学の講義室内に「茶室」を出現させました。実際に茶室というのは、その位置・大きさ・窓の切り方・光線の取り方などあらゆる構造が、茶室という別天地を外の世界から、そして日常的生活関連から隔離して、中にいるものをそこに静かに落ち着かせるように出来ています。これはひとつに茶が隠者文化の伝統を受けているところによるものであろうし、それ以上に茶の湯という一つの自立世界の展開の論理に従ったものであるからです。私たちはこの点に着目しました。

 室町時代に成立した「茶」の文化は、日本美術史においても大きな影響を与えています。
ある種、当時の美意識の集大成として結晶化した茶室を、21世紀の今を生きる私たちの美意識で再構成することに意義があります。私たちの創り出した空間が、鑑賞者の美意識と五感にどのような影響を与えるかの実験でもあるのです。

 今回は、基本メンバーを変えずに芸術的隔離を念頭に置いた新企画を携え、中之条ビエンナーレへのエントリーとなります。

●グループ名の由来

 陸羽(りくう、733年-804年)とは、中国・唐代の文筆家の名で、茶の知識をまとめた『茶経』3巻などを著述しました。俗説ではありますが、日本の茶人でもある利休も陸羽と韻を踏んでいる事から、「茶」を学び広めるにあたり陸羽の事も知っていたと思われます私たちは「茶」を念頭において活動を始めたわけではありませんが、装置としての「茶室」を再構成するにあたり、先人に敬意を表してこの名を冠して活動をすることにしました。

●深海の茶室「漸深庵」

陸羽 陸羽
▲CLICK HERE▲

 茶室は、室町時代に茶の湯の成立とともに考案された「茶」のための建築です。それゆえに日本建築の中でも特殊な空間となっています。茶室は、戦乱の世の武士が戦地に赴く前のつかの間の平安・心の平静・戦意の高揚のためにも極めて重要な役割を担っていました。

 茶室の位置・大きさ・窓の切り方と光の採り方などあらゆる構成要素が、中にいる者を外の世界や日常生活から切り離し、そこに落ち着かせるように出来ています。これは「茶」がもともと一座建立の場であり、主人と客の一対一の濃密な場であることに応えたためです。

 すなわち茶室は、第一に俗世からの芸術的隔離性を与えるものとしての意味を持っているのです。

 「陸羽」が行うのは、ただ茶室を再現することではなく、今を生きる我々の感覚から生まれる新しい形の茶室の創造です。それはすなわち、現代の様々な状況や環境の中で、どのような芸術的隔離空間が創られうるのか、というインスタレーションです。

 漸深庵」は、「藝祭(毎年夏に行われる東京藝術大学の学園祭)」というきわめて陽な環境から隔離された異空間として、展示場である講義室内を全闇にした中でおぼろげに浮かび上がる「茶室」を設定し、これを深海に見立ててデザイン・製作したものです。茶室が暗室の中に光として浮かび上がり、下にひかれた水が清涼感を引き立てます。
ここに生まれるのは、視角だけでは語れない五感を揺さぶる感覚であり、それは私たちが視角中心の情報に囲まれているからこそ喚起させなければならない感覚です。その感覚を喚起させることで、室町時代に求められていたものとは違う現代の芸術性が生まれます。「漸深庵」は、そのための装置でもありました。

●中之条ビエンナーレ展示プラン「赫土庵」

 今回は群馬の自然の中の一画につくるという前提を基に、「地中の茶室」を想定しています。

  地下は、「古事記」においてイザナギが死んだ妻のイザナミを追って訪れる「黄泉(ヨミ)」の字が漢文ではコウセンと読まれ「地下の泉」を指すことから転じて、死者の暮らす世界と結び付けて考えられています。また、日本だけでなく世界の神話の中にも似たような話が多数存在し、「地下=冥府・黄泉の世界」というイメージは古代の人々の中に共通認識としてあったように感じます。死者を埋葬するのもまた地下です。まだ意見の一致を見るに至っていないのですが、最も古い埋葬の例はネアンデルタール人のものがよく知られていて、埋葬の起源はおよそ10万年前にさかのぼります。

 しかし、今日、都市において地下は珍しくなくなり、地下を現世から切り離された世界に感じることは少なくなってきています。「地中の茶室」は、自然という原始的な環境の中に「茶室」という隔離性を持った形で持ち込むことで、現世から隔離された空間をつくろうとするものです。

PAGETOP